この納経帳は天保11年(1840)旧11月から12月にかけて四国八十八ヶ所を巡拝したものである。冒頭に京都の仁和寺と東寺の納経があることから京都もしくはその近辺の人であろうと考えられる。四国霊場の納経は第78番道場寺(現在の郷照寺)から順打ちしており、大阪から丸亀に渡ったのではないかと思われる。
以下に阿波の雲辺寺(讃岐の霊場の一つとして扱われることが多い)から讃岐に入り、77番道隆寺で打ち終えるまでの納経を見ていく。この区間は本札所のみで、番外札所での納経はしていないようだ。
讃岐の札所(雲辺寺~道隆寺)
雲辺寺/大興寺
【右】66番 雲辺寺
巨鼇山 千手院 雲辺寺
本尊:千手観世音菩薩
所在地:阿波国三好郡白地村(徳島県三好市池田町白地)
墨書は「奉納/本尊千手大悲/阿波雲邊寺」。中央の宝印は蓮華座上の火炎宝珠に千手観音の種字「キリーク」、不動明王の種字「カーン」、毘沙門天の種字「ベイ」。右上の印は「第六十六番」、左下の印は薄くて判読しづらいが、同時期の納経帳から「巨鼇山 千手院」だろうと思われる。
【左】67番 大興寺
小松尾山 不動光院 大興寺
本尊:薬師如来
所在地:讃岐国豊田郡辻村(香川県三豊市山本町辻)
墨書は「奉納/本尊薬師如来/讃州小松尾山/大興寺」、日付は「十一月廿六日」。中央の宝印は火炎宝珠に薬師如来の種字「ベイ」。右上の印は「六十七番」、左下は判読できない。
琴弾八幡宮・神恵院/観音寺
【右】68番 琴弾八幡宮・神恵院
琴弾八幡宮
祭神:応神天皇・神功皇后・玉依姫命
七宝山 観音寺 神恵院(七宝山 神恵院)
本尊:阿弥陀如来
所在地:讃岐国豊田郡観音寺村(香川県観音寺市八幡町)
墨書は「奉納/琴弾八幡宮/七寶山/神恵院」、日付は「子十一月廿六日」。中央に宝印はない。右上の印は「六十八番」、左下は「七寶山 觀音寺」だが上下反対に押されている。
【左】69番 観音寺
七宝山 神恵院 観音寺(七宝山 観音寺)
本尊:聖観世音菩薩
所在地:讃岐国豊田郡観音寺村(香川県観音寺市八幡町)
神恵院の納経と同じ人物によると思われる。墨書は「奉納/本尊聖観音/右同處/観音寺」、日付は「子十一月廿六日」。中央に宝印はない。右上の印は「六十九番」、左下は「七寶山 觀音寺」だが、神恵院の納経と同じく上下反対に押されている。
※68番札所琴弾八幡宮の別当は69番札所観音寺で、納経はどちらも観音寺で行っていた。その際、68番の納経では院号の神恵院、69番の納経では寺号の観音寺を使っていたようだ。現在は68番札所の本尊・阿弥陀如来(琴弾八幡宮の本地仏)を祀る観音寺西金堂を神恵院と称しているが、本来は観音寺の本坊の名称だったと思われる。
本山寺/弥谷寺
【右】70番 本山寺
七宝山 持宝院 本山寺
本尊:馬頭観世音菩薩
所在地:讃岐国三野郡寺家村(香川県三豊市豊中町本山)
墨書は「奉納/馬頭尊/本山寺」。中央の宝印は火炎宝珠に馬頭観音の種字「カン」、阿弥陀如来の種字「キリーク」、薬師如来の種字「ベイ」。右上の印は「四國七拾番」、左下は「本山寺」。
【左】71番 弥谷寺
剣五山 千手院 弥谷寺
本尊:千手観世音菩薩
所在地:讃岐国三野郡大見村(香川県三豊市三野町大見)
墨書は「奉納/本尊千手/弥谷寺」。中央の宝印は蓮華座上の火炎宝珠に千手観音の種字「キリーク」。左上の印は「四國七十一番」、左下は「彌谷寺 満願窟」。
曼荼羅寺/出釈迦寺
【右】72番 曼荼羅寺
我拝師山 延命院 曼荼羅寺
本尊:大日如来
所在地:讃岐国多度郡吉原村(香川県善通寺市吉原町)
墨書は「奉納經/本尊大日如来/讃州 我拝師山/曼荼羅寺」、日付は「子十一月廿七日」。中央に宝印はない。右上の印は「四國七十二番」、左下は梵字で「マンダラ(曼荼羅)」。
【左】73番 出釈迦寺
我拝師山 求聞持院 出釈迦寺
本尊:釈迦如来
所在地:讃岐国多度郡吉原村(香川県善通寺市吉原町)
文字部分は版木押しで「奉納經/本尊 釈迦如来/西讃 我拝師山/出釈迦寺」。中央に宝印はない。右上の印は「第七十三番」、左下は白抜きで「我拝師山 出釋迦寺」。
甲山寺/善通寺
【右】74番 甲山寺
医王山 多宝院 甲山寺
本尊:薬師如来
所在地:讃岐国多度郡弘田村(香川県善通寺市弘田町)
文字部分は朱の版木押しで「奉納/本尊藥師如來/西讃屏風浦/醫王山甲山寺/堂司」。中央に朱印はない。右上の印は「七十四番」、左下は「勝厳」ではないかと思われる。
【左】75番 善通寺
五岳山 誕生院 善通寺
本尊:薬師如来
所在地:讃岐国多度郡善通寺村(香川県善通寺市善通寺町)
文字部分は版木押しで「勅願所/讃州屏風浦/善通寺伽藍/大師御誕生所/誕生院堂司」。中央に宝印はない。右上の印は「第七十五番」、左下は「屏風浦 五岳山 善通寺」。
金倉寺/道隆寺
【右】76番 金倉寺
鶏足山 宝幢院 金倉寺
本尊:薬師如来
所在地:讃岐国那珂郡金蔵寺村(香川県善通寺市金蔵寺町)
文字部分は版木押しで「奉納/金堂本尊藥師如來/智證大師五誕生地/訶利帝母御出現所/讃州雞足山金倉寺/役者」。中央に宝印はない。右上の印は上の部分が切れているが「四国七十六番」だろうと思われる。左下の印は「鶏足」。
【左】77番 道隆寺
桑多山 明王院 道隆寺
本尊:薬師如来
所在地:讃岐国多度郡北鴨村(香川県仲多度郡多度津町北鴨)
墨書は「奉納經/本尊薬師如来/西讃桑多山/道隆寺 役者」、日付は「子十一月廿八日」。中央の宝印は火炎宝珠に薬師如来の種字「ベイ」。右上の印は「四國第七十七番」、左下は「道隆寺役者」。
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